H.I.P. x ローチケ presents Choice!!
【出演者】yama / 703号室 /藤川千愛
2021.7.8 thu at TSUTAYA O-EAST
open 17:30 / start 18:30
注目のyama、703号室、藤川千愛が競演!
個性派シンガーたちが、三者三様の歌と世界観で魅了
シトシトと雨が降り注ぐ7月の東京。街全体がどんよりムードとはいえ、渋谷は道玄坂のTSUTAYA O-EASTの会場に一歩踏み込んだ途端、心地よい緊張感が漂っている。[H.I.P. x ローチケ presents Choice!!]と題されたこの日のイベント。現在注目を浴びる3組のアーティストが出演する。一見あまり共通項がなさそうにも思える3者だが、ライブの進行と共に痛感させられたのが、三者三様、とてもユニークで個性的な歌を披露する点だ。自分らしさを存分に発揮する個性派シンガーたち。3者の世界観は、聴き比べることでいっそう鮮やかに見えてきた。
まず一番手として登場したのが、藤川千愛。普段はバンド形式でライブを行う彼女だが、この日はアコースティックなセッティング。アコギとキーボードのみを率いたシンプルな編成だけに、ことさらボーカルが際立っている。昨年11月にリリースされた最新アルバム[HiKiKoMoRi]に収録の『四畳半戦争』でスタートすると、軽妙でジャジーな演奏を背景に、彼女の歌もよく跳ねる。自然と手拍子が湧き起こった代表曲の『ライカ』、6月に発表されたばかりの新曲『片っぽのピアス』(テレ東系ドラマ[にぶんのいち夫婦]オープニングテーマ)など、巧みにコントロールされた歌を披露。時折、飛び出すディープな低音にドキッとさせられる。多彩な歌唱法で楽しませてくれたが、『おまじない』で聴かせた昭和歌謡を思わせるレトロ感こそが、とりわけ彼女ならではの持ち味だろう。舶来のハイカラを思わせるブルージーなスタイルで歌う若手シンガーなど、他には見当たらないという気がする。
ほぼずっと後ろ向きで歌った『夜もすがら君を想う』、ボーカルのみでスタートしたラストの『東京』など、歌への集中力が半端なく、拘りも大いに伝わってきた。初めて観て、次回ワンマンライブで全貌を確かめたいとファンになった人も多かったに違いない。
約20分の休憩を挟んで登場したのは、703号室。シンガーソングライターの岡谷柚奈によるソロプロジェクトだが、元々はスリーピースのバンドで結成されており、この日のステージも女性ベーシストを含む5人組の編成だ。ドライブ感抜群のロックチューン『fliP』で幕を開けると、彼女自身もギターを掻き鳴らしながら2曲目の『偽物勇者』へと突入。YouTubeで1,300万回の再生数を誇るシグネチャーソングで一気に会場を沸かせた。話しかけるように歌われた『アオアザ』、一緒に口ずさみたくさせる『裸足のシンデレラ』、新曲『片思いうぉーかー』など、アップリフティングなサウンドに乗せて、快活に歌い飛ばしていく。勢い余って調子っ外れになる瞬間も、パンキッシュでいい感じ。かと思えば、夢を持つことの素晴らしさを神妙に語ってから歌い始めた『花笑む』では、島唄風のメロディを丁寧に歌い上げ、引き出しの多さを印象付けた。
MCで「東京ドームで歌うのが夢」と語っていた彼女。ラストの『僕らの未来計画』を歌い始める際にも「絶対東京ドームに立つので、そのときは観にきてください!」と挨拶していたが、これだけ間口の広いポップロックであれば、東京ドームも夢ではないという気がした。
そして、いよいよ始まったyamaのステージ。年齢や性別、出身、素顔など、プライベートが一切明かされず、謎に包まれたアーティストだけに、自ずと会場の緊張感も跳ね上がる。バックバンドの演奏に呼び込まれる形で、yamaはステージに登場、深くフードを被り、目元から頬に掛けてはマスクで覆われている。そんな本人に合わせてか、バックを務める4人のミュージシャンたち(JIN[key]、CÉSAR[Gt]、カツヤタクミ[Bass]、エノマサフミ[Drums])も、思い思いにサングラスや帽子、仮面などで顔を隠している。一見バラバラのようで、黒系のファッションで統一。ステージ中央の本人だけが白の上下で、浮き立つという寸法だ。5月にリリースされた最新シングル『カーテンコール』でパワフルにスタートした。
時に激しく、時に優しく、寄り添うように。1曲の中で、1フレーズの中で様々に表情を変えていくyamaのボーカル。パワフルな地声から、フワッとした裏声まで、声色もバラエティ豊かだが、何と言ってもここぞという時に切り込む、瞬発的なアタック感が秀逸だ。ここで決めてほしいという箇所になると、ピシッと決めて、パンチのあるボーカルであたりの空気を切り裂いていくのが何とも痛快で、気持ちがいい。
これまでのライブではジャズやイレギュラーなアレンジが多かったが、「今回はオリジナルに忠実なアレンジで披露する」と数日前に本人は語っていたが、それでもバンドの演奏は、かなりジャジーで起伏に富んでいる。ツワモノ揃いのメンバーだけに、どんどん即興などが盛り込まれ、サウンドも重厚だ。それに負けじとバック演奏を制するかのようにyamaもいっそう声を張り上げるので、そのせめぎ合いが『Downtown』や『血流』といった前半のナンバーでは、とにかくスリリングで興味深かった。
一方、バラード『真っ白』では、ピアノやウッドベースなどのストリップダウンした演奏に乗せて、憂いに満ちた歌声をじっくりと披露。ドラマチックなライティングの演出も合わさって、yamaの素朴な歌と、まっすぐな視線が共感と感動を呼び覚ました。
そのバラードが転機となったのか、あとに続いた『a.m.3:21』や『麻痺』では、すっかり寛いで、リラックスした様子で歌っているように思われた。バラード『クリーム』のエレクトロニックを導入したチルなムードも、yamaの儚い歌声と見事にマッチ。心のヒダを確かめるかのような歌唱が、なんとも心地よかった。
そしてラストは、もちろん『春を告げる』で大団円。SNSを中心にyamaに大ブレイクをもたらした同曲が始まると、総立ちの会場はひと際熱狂的に盛り上がった。オーディエンスもバンドのメンバーもこれが最後とばかりに思いっきり激しく動いている。が、そんな中、唯一yamaだけが不動の状態で、歌だけに全身全霊を注いでいる。ある意味、とてもシュールな世界が展開されていた。全てを歌い終わった後に「ありがとうございました」と発したほかは、MCも一切なし。歌だけで勝負、とは正にこのことだろう。
9月29日(水)には同じ会場から、1stアルバム[the meaning of life]を引っ提げた全国ツアー“the meaning of life” TOUR 2021もスタートする。今回の対バンを経て、一体どう変化するのだろうか、というのも興味津々だ。
[TEXT by HISASHI MURAKAMI]
[PHOTOS by 冨田味我]