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LIVE REPORT

Creepy Nuts

Creepy Nuts One Man Live「かつて天才だった俺たちへ」日本武道館公演

2020.11.12 thu. 日本武道館
open 17:30 / start 19:00

「等身大」の彼らがたどり着いた
最高の場所での最高のパフォーマンス

 大ブレイクしたテレビ番組[フリースタイル・ダンジョン]で、お茶の間にまでヒップホップを浸透させて世にフリースタイル・ブームを巻き起こした立役者の一人であるラッパーR-指定と、30年以上の歴史を誇る世界最大のDJ大会[DMCワールドDJチャンピオンシップ]で、2019年に優勝したDJ松永。その二人によるクリーピー・ナッツが日本武道館で2デイズのパフォーマンスを行った。

 定刻で幕を開けたステージは、1stアルバム[クリープ・ショー]のラストを飾っていた『スポットライト』からスタート。センター・ステージで所狭しと動き回るR-指定とDJ松永の切れ味鋭いスクラッチを交えたパフォーマンスに、観客のテンションも一気に最高潮になった。続いてはクリーピー・ナッツ初のセルフボースティング曲『生業』、自らのスタイルを信じ抜く『耳なし芳一』へと続く立ち上がりのこの流れは、流行り廃りに関係なく自分たちが信じるヒップホップのあり方を宣言するという、実に彼ららしい生真面目な思いを感じさせた。

 SEを挟んでメイン・ステージに戻ると、DJセットとMCが同列に並び(※これは1MC、1DJというグループ構成ゆえだが、ヒップホップのライブでは普通は後列にDJが位置し、その前をMCが動き回るというのが基本なので、かなり珍しいと言える)、3面のスクリーンに、時折VJ的な映像が流れるものの、ほとんどはラップしスクラッチする彼らを映し出すのみという、とことんシンプルなセットになっていた。“ラップしてスクラッチする。これが俺たちのスタイルだ”というヒップホップ・タームでいうところの“Noギミック No小細工”を地で行くスタンスが、これまで続けてきた自らのスタイルと1ミリもブレてなくて、とても好感が持てるものだった。

 武道館という大舞台に立っても浮き足立つことなく、いつも通りラップしDJするだけ、という地に足ついた彼らのパフォーマンスは、立ち上がりから観客の気持ちをがっちり掴んだ大きな要因だったと思う。実際MCで「ほかのミュージシャンやバンドの人たちが言うほど、武道館のステージに立つことが自分たちの目標ではなかった」と語っていた通り、小さい箱から始めて地道にラップし続けてきた結果が[フリースタイル・ダンジョン]であり、この武道館のステージだった。そんな彼らの一貫した姿勢が、これだけ多くの人たちを惹きつけてきた一つの理由であることは間違いない。その後に演じた、観客が主演で自分たちはあくまで観客を盛り立てるための助演なんだということを歌った『助演男優賞』や、DJ松永が大ファンだというオードリーの[オールナイトニッポン10周年全国ツアー]のテーマソングとなった『よふかしのうた』など、等身大の彼らならではの独自の視点による楽曲で観客をさらに巻き込んでいく。

 そして、『オトナ』に続いて披露されたのが、菅田将暉とのコラボレートで話題となった『日曜よりの使者』のカヴァーと『サントラ』だ。この2曲でR-指定が菅田将暉に代わって披露した歌声は、彼のヴォーカリストとしての可能性を十二分に示した堂々たるものだった。小バコから武道館へと、舞台を大きく変えても変わらないパフォーマンスを見せることができるのは、ひとえにR-指定の地声の強さゆえだと再確認させられた瞬間だった。フリースタイルでその名を轟かせた彼だが、瞬間瞬間で最適な言葉を紡ぎ出せるスマートさはもとより、マイク一つでその場を支配するラッパーにとって、“声の強さ”がとても重要だということを改めて認識させるほど、今回の彼のパフォーマンスは素晴らしいものだった。

 結局ゲストを1人も呼ばずに(※これもヒップホップのライブ、特に今回のような大きな舞台でゲストを呼ばないというのもとても珍しいことだ)、二人でやりきったというのは、R-指定の声の力と、そして忘れてはいけない、DJ松永のDJの力が合わさってこそだった。そもそもUMB(アルティメット・エムシー・バトル)3連覇という日本一のMCとDMCで世界をとったDJ、という実績を考えたら当たり前と言っていいことかもしれないが、そういった“実はエリート・コンビなんだ”ということを気にさせないというのがむしろ彼らの魅力だろう。

 リリックの内容にも色濃く渦巻くルサンチマンがゆえに、誰しも抱えているコンプレックスや現状に対する苛立ちなど、リスナーそれぞれが持っている個々の問題とリンクしながら感情移入させることができる、そんなスタイルを確立したのは偉業と言っていい。かつてメジャーで売れていたヒップホップというのは、親に感謝するといった類の、頑張れソング程度だったわけで、ある意味この二人はいわゆる文系ヒップホップの一つの到達点なのかもしれない。彼らが尊敬すると言って憚からないライムスターの代表曲『B-Boyイズム』から引用するとすれば、「毎週末の金土の / テレビドラマの中に後ろ姿 / 見つけられなかった仲間たち」に向けての歌なのだ。それはライブの後半に披露され、[フリースタイル・ダンジョン]の絶頂期に書かれたという、多分にペシミスティックな『未来予想図』や『Dr.フランケンシュタイン』のリリックによく表れている。そしてストレスフルなこの時代において、こういう形でリスナーの側に立てるアーティストは、特に現行の日本語ヒップホップでは非常に稀有な存在であるということは明らかだ。
 そしてライブは、今回のタイトルでもある『かつて天才だった俺たちへ』で、とてもポジティブなメッセージを残して一旦幕を閉じる。

 アンコールではR-指定の専売特許である“聖徳太子スタイル”で、観客からお題をもらって(※当日はコロナ感染防止のため声を出すことが禁止されていたので、事前にアンケート用紙に記入するという形でお題が集められた)、そのお題に沿ってフリースタイルを披露。初日のお題は7個だったそうだが、最終日は8個のお題でフリースタイルを見事に決め、その後DJ松永がルーティンを披露して、彼らの持ち味を存分に発揮した。続いてメロディックなフロウが印象的な新曲『bad orangez』が初お披露目となり、メジャー・デビュー・ミニアルバム[よふかしのうた]収録の『グレートジャーニー』で大団円を迎える堂々の全25曲、2時間半のステージだった。
 現在、様々なメディアでヒップホップ/音楽フィールド以外にも引っ張りだこの彼らだが、この勢いがフロックでないことを十分に証明し、この先に様々な可能性を秘めていることを感じさせる、素晴らしいライブ・パフォーマンスだったと言えるだろう。ひと回りもふた回りも大きくなって再びこの大舞台に戻ってくる時、彼らが何を見せてくれるのか今から楽しみだ。

[TEXT by AWANE(the LEWED HERZ/sonimage-Lab,inc)]
[PHOTO by kouhey0622 / orz_____rio / umihayato]
[RETOUCHED by hiroyabrian]


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