Buckcherry
Japan Tour 2019
2019.10.15 tue. LIQUIDROOM
open 18:00/start 19:00
Opening act:Jared James Nichols
時代が移り変わろうとも揺るぎないハードR&R
約3年ぶりにして最強の狂乱に彩られた来日公演
数日前に記録的な台風19号の猛威に襲われ、大混乱となった東京。一部では実現が心配されていたBuckcherry3年ぶりの来日公演だが、当日は曇り空に覆われながらも過ごしやすい秋の空気が関東を包み、会場となった恵比寿リキッドルームには無事、たくさんのファンが集まっていた。
開演予定時刻ジャストの19:00、サイレンのSEを合図にオープニングアクトJared James Nicholsがトリオ編成で登場すると、フロアは大きく沸き、歓迎の声援を送る。ステージ下手に黒のレスポールカスタムを構えて立ち、ストレートな8ビートのハードロック・チューン『Last Chance』を冒頭からパワフルに歌い上げてみせる彼。長い金髪を揺らしながら足を大きく開いた立ち姿は、Blue Murder、Sykes時代のジョン・サイクスを彷彿とさせるワイルドな華麗さを漂わせていて、カッコイイの一言だ。フィンガーピッキング(ピックを持たずに指で弾く)で味わい深いトーンやテクニカルなフレーズを次々と披露するソロプレイがまた気持ちいい。乾いたブルースとヘヴィグルーヴがマッチした『Don’t Be Scared』で、ギターを抱え上げながらの強烈なビブラートをカマして観客を煽ったかと思えば、イントロから大きな手拍子を巻き起こしたハードブギー『Baby,Can You Feel It』では、ステージを飛び降りて最前列の観客を大いに沸かしたり…と、プレイはもちろんだが、エンターテイナーとしても秀逸な魅力を放っている。 パワー・バラード『Nails』、そしてラストの『Mississippi Queen』まで7曲とコンパクトなパフォーマンスだったが、母国ではすでに広く認知されているその高いポテンシャルを、Backcherry目当てで訪れた日本のファンにも強烈に印象づけただろう。
機材入れ替え、セッティングのインターバルを経て、再びSEが鳴り響いたのは19:58。大歓声に包まれたステージに満を持してBuckcherryのメンバー5人が登場した。
オープニングは3月リリースの最新アルバム[Warpaint]に収録されていたNine Inch Nailsのカヴァー『Head Like a Hole 』。オリジナルのインダストリアルな香りを残しながらも、Backcherryらしくワイルドにアレンジされたハードグルーヴが、一気に客席を波打たせる。さらにすかさず繰り出される前ノリR&Rチューン『Whiskey In The Morning』。2本のギターが交互にオブリガートをカマし、グイグイと盛り上げていく。ミドルテンポの『Ridin’』で会場中の手拍子が巻き起こったあと、[Warpaint]からのバラード『Radio Song』をしっとりと披露するときにはVo.ジョシュ・トッドのシャツは脱ぎ捨てられ、以前よりもさらにグレードアップした上半身のタトゥーが露わになっていた。
デビュー20周年をさりげなくアピールしたMCから、その20年前に世界中を乱舞させたスマッシュヒット・チューン『Lit Up』のリフが鳴り響く。タンバリンを手にしたジョシュが客席のみならず、メンバーをも煽ってみせると、リズム隊のグルーヴがさらにパワフルに! 『Somebody Fucked With Me』そして『Right Now』でヒップホップ・フレーバーの効いたハードグルーヴを叩きつけ熱しきったところで、アルバム[15]収録のパワーポップ・チューン『Everything』。ダイナミックで爽やかなメロディのサビでは、もちろん会場中の大合唱となった。
新旧の楽曲を織り交ぜ、息をつかせぬ勢いで中盤までを牽引したBuckcherry。2017年にオリジナルギタリスト、キース・ネルソンが脱退し、現メンバーとなっての来日は初だが、スティーヴィー・D&ケヴィン・レントゲンのツインギターを含め、バンドのコンビネーションに不一致や問題など微塵も感じさせない。いやむしろ、4つの楽器による塊のようなグルーヴは、これまで最強と言ってもいいかもしれない。だがそこで際立って見えたのが、やはりこのバンドの中心人物であり、象徴と言えるジョシュの存在感だ。スリムな長身を揺らし、激しく叫びつつもどこかクールに映るその表情や動き。歌い上げるでもなく、まくしたてるでもなく、しゃがれたハスキーボイスでシニカルに歌いつつ、妖艶かつ危険な香りを振り撒くその様子は、まさにR&Rスターそのもの。そこへさらに近年は円熟味が加わって、独特のカリスマ性を漂わせている。長く喋るMCはなかったが、曲間で駆り立てるように客席を煽る彼の言葉に大きな歓声を上げて応える日本のファンの様子には、彼自身も満足げな表情を浮かべていた。
グルーヴィなR&R『Too Drunk to Fuck』では、2人のギタリストがワウペダルを駆使してエッジの効いたリズムを刻む。美しくダイナミックなバラード『Sorry』を挟み、前のめりなハードロック・チューン『Gluttony』でフロアをかき乱すと、ここからライヴはクライマックスに向けて突っ走る。2本のギターがユニゾンでリフを刻む『The Alarm』を叩きつけたあと、ジョシュがピョンピョンと跳ねるようにステップを踏みながら歌う、ケニー・ロギンスのカヴァー『Footloose』を披露。サプライズに大盛り上がりのところで、締めの『Crazy Bitch』をブチかます。赤と緑のライティングが狂乱のムードを演出する中、中盤ではジョシュが4人のメンバーを紹介しつつ、それぞれのソロパートで他のメンバーが揃いの横滑りステップを踏んで盛り上げた。
一旦、ステージから去ったものの、湧き上がる客席の手拍子にすぐさまメンバーが戻ってきた。グランドフィナーレ『Say Fuck It』。会場中が大きく飛び跳ねながら“SAY FUCK IT! SAY FUCK IT!”と叫ぶその声に、ステージ上の5人は、満面の笑顔を浮かべていた。
Buckcherryがこの20年の間に展開してきた変化には幅があり、それらを含めて構成されたこの日のライヴには、バラエティ感が溢れていた。サウンドの一部にはメンバーの入れ替わりが影響した部分もあるだろう。それでも根底にあるトラディショナルかつスリーズィなハードR&Rスタイルはいまだ顕在で、ロックシーンのトレンドがどう移り変わろうと、今後も変わらないように思える。その核はやはり、ジョシュという稀代のロックスターが持つパーソナリティにあると実感させられた夜だった。
[TEXT by SATOSHI FUSHIMI]
[PHOTOS by YUUJI HONDA]